兄のお話。
私は兄が苦手だった。
趣味も共通のものもなく、兄はぶっきらぼうで、会話も少なかった。
・・小さい頃、私は兄について回った。
体も小さな私がついて回るのが邪魔だったのか、兄は私を突き離したり、置いて外に遊びに行ってしまった。二つ上の兄は、体も大きかったが、私は同年代の子達の中でも一番体が小さかった。
私は同年代の子と遊ぶ機会より、兄と、兄の友達と遊ぶ機会が多かったが、ちょいちょい置いていかれることも多かった。
僕が嫌いなのかな・・。
そんな私は、1人で山に上り、カマキリを捕まえたり、蛇を捕まえたりして遊ぶ機会が増えていった。もともと山が好きだった。
その日も1人で自転車に乗って出かけた。
山に向かう道の途中にトンネルがあり、脇には用水路があった。
うっすら水が流れる少し深めの用水路の脇に自転車を止め、その用水路を覗いた。
そこには蛇が数匹いた。マムシだった。
その用水路には、いつ行っても数匹のマムシがいるのがわかった。
休みの日に、再び、その用水路に自転車で行き、木の枝を拾ってマムシをひっかけ、道路に上げては、手で捕まえたり観察したりしていた。
兄にも見せてあげたかった。
ある日、トンネルの所の用水路には、いつも蛇がいるから見にいこうと兄を誘い、2人で自転車に乗り、トンネルの用水路に向かった。
その日も、やっぱり数匹のマムシがいた。
いつもと同じように木の枝を拾ってきて、マムシに引っ掛けて道路にあげた。
捕まえて兄に見せようと、手でマムシの後頭部を掴んだ。
すると、後頭部を掴まれたマムシは頭を反転させて、私の人差し指を噛んできたのだ。
マムシは強い毒を持っている。
慌てた私はすぐにマムシを振り払い、噛まれたことを兄に伝えた。
兄は『とにかく家に帰ろう!!』と、2人で自転車をこぎ、家路に急いだ。
母は仕事で不在。祖母は私たちが住む家の真向かいに住んでおり、祖母の家に行き、事態を伝えた。すぐにタクシーを呼んでくれ、祖母と2人で病院に向かった。
私の人差し指はみるみる青黒く変色し、パンパンに腫れていた。
病院に到着してから噛まれた傷口を消毒し、血清を打ち、包帯を巻いてもらって、しばらく休んでから自宅に戻った。
兄はしばらくすると自宅に帰ってきた。
母はその時は仕事で抜けられなかったようだが、就業を終え帰宅して私の状態を気にかけた。
後に聞いたことだが、噛まれてから、自宅に着き、私は祖母の家でタクシーの到着を待っている時、兄は母の職場に電話したそうだ。
だが、電話の横のメモ帳に書いてあった母の職場の電話番号が間違っていたのか、母の職場に繋がらなかった。
仕方がないので、兄は自転車で母の職場に向かったのだった。
その時の兄は汗びっしょりで息を切らし、慌てて職場に入ってきて母に状況を伝えたのだそうだ。
それを聞いて、私は嬉しかった。
いつも置いていかれて突き放されるから、兄は私が嫌いなのかな、、邪魔なのかな、、そう思ってたから。
だから、すっごく嬉しくて、嬉しくて泣いた。
私は兄が大好きだったから。
今でも思い出すんだよ。
私を突き放してぶっきらぼうに振る舞うけど、本当は優しくて、実はいつも私を気遣ってくれていた。
体が大きくて強い兄が大好きだった。
ありがとう。
あなたは今でも私の誇りです。